およそ1年半ぶりの東京都知事選が近づいている。私たち都民が13年にわたって選択し続けてきた石原都政がどのような施策をしてきたのか。多摩ニュータウンでの身近な例を挙げてみていきたい。(取材・文=木内慧)
東京都環境局は「みどり率」という数字を区部と多摩地域に分けて5年ごとに発表している。みどり率とは、みどりが地表を覆う部分に、公園区域や水面を加えた面積が全体に占める割合のことだ。1998年、2003年、2008年の直近のデータを見ると、区部、多摩地域ともにみどり率は減少していることがわかる。同局では、公園・緑地は区部・多摩地域ともに増加しているが、特に多摩地域では宅地造成などの開発により樹林や原野、農用地が減少してきたと分析している。
多摩ニュータウンでも、ここ近年大型の民間マンション開発が相次いでいる。これらのマンション開発が行われている土地の多くはニュータウン開発の新住宅市街地開発事業区域として計画され、日本住宅公団(後の独立行政法人都市再生機構=UR都市機構)が2005年まで開発を担当していた。例えば、多摩センター駅西側のマンション開発が続いた地域は、当初、都市センター・住区サービス・病院といったようなパブリックスペースを建設する土地として計画されていたが、こうした施設の誘致は難航し、2005年以降は民間に土地が売却され、民間の手に開発が委ねられることになった。この持て余していた広大な空き地の開発が始まったことも、みどり率減少の一因であろう。
数十年前の計画をそのまま実行することは困難だとしても、当初の計画で多くの住民が使えるパブリックスペースとなるはずだった土地を私企業に払い下げる段階で、周辺住民を巻き込んだ議論が起きなかった点には疑問が残る。また、用途を変更するにしても、みどりが豊かだという多摩ニュータウンの長所を伸ばすために、新たな公園・緑地の整備を同時に進めるという方法もあったはずだ。また、事実上、東京都教育委員会の指揮の下で行われている小中学校統廃合も、大型マンション開発による人口増加を考慮しているのか疑問だ。
区部・多摩両地域において、都内のみどり率はこの15年間で一貫して減少している点をみると、石原都政がハード面の開発を強く推し進めてきたことがわかる。
余裕のある住戸配置とみどりの豊かさは多摩ニュータウンの最大のアピールポイントだ。「公園が多く子育てがしやすい」「都心と比べてみどりが多く住みやすい」などという声もよく聞くが、UR都市機構による開発は最終的に赤字で終わった。多摩ニュータウンのように広々とした土地にゆとりを持たせて都市計画を行う比較的新しいまちづくりは、利潤を追求する私企業には難しい、真に住民に優しいプロジェクトだ。民間開発という新たなステージに突入した今、乱開発や少子高齢化といった困難な問題にどう対処し、これまで作り上げてきた快適な住空間を守り育てていくのか。新しい都知事にはぜひ、区部だけでなく多摩地域の問題にも真剣に取り組んでいただきたい。