インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムの「マーケット・プレイス」を利用して中古の本やCD、DVDなどを販売する業者や個人から、商品を預かって出品作業を代行するというユニークなビジネスを展開している会社が、多摩市にある。乞田新大橋の近く、多摩ニュータウン通りに面したビルの3階にオフィスを構える株式会社アプレック(多摩市乞田1154-1)を訪ねた。
アプレック代表取締役の石田活夫氏(左の写真)が同社を立ち上げたのは2006年のこと。医療器械の営業職を辞めて、次に何をしようかと考えていたとき、テレビで見た「せどり」(古本などの掘り出し物を転売して利ざやを稼ぐ)という商売のことを思い出した。ブックオフに出かけて古本を仕入れ、自宅マンションの押し入れに保管し、アマゾンのサイトに必要なデータを入力して出品した。受注のメールが届くと、本を梱包して宛先を付けて発送する。買い手とメールのやり取りをする。数件を処理するだけであっという間に何時間も経ってしまう。「これはしんどい」と思ったが、同時に、こうした一連の作業を代行し在庫も受け持つサービスが商売になるのでは、とひらめいた。
事業計画の立案、ビジネスモデル特許の出願、資金集め、データベースと出品管理システムの構築(現部長のS氏が担当)、古物商免許の申請などの準備を進めながら2006年7月に会社を設立。同年10月には現在のオフィスに入居した。古物商は都道府県単位での免許のため、都内で物件を探していたが、多摩市に決めたのは単純に23区内よりも「安かったから」。それでも、のちにアルバイトで雇う市内在住のスタッフたちのスキルと意識の高さにずいぶん助けられることになったという。「うちのアルバイトは主婦の方が多いのですが、まじめによく働いてくれます。パソコンのスキルも総じて高く、デザインの経験を生かして会社のホームページを作成してくれた人や、バイトを始めてからプログラミングを覚えてツールを開発してくれた人もいますよ」と石田氏。
業務の流れとしては、まず出品者から送られてきた古本などの商品をバーコードリーダーで1点ずつ入力(右の写真)。商品状態のランクを画面上で選択すると、マーケット・プレイスでの相場を照会して自動的に価格設定が行われる(出品後の相場に応じて自動的に価格改定するツールも会員に配布している)。わずかな工程の作業で出品までの手続きができるようになっている。
入力作業が済んだ商品はポリフィルムで包装し、管理用のバーコード付きシール(左の写真)を貼りつけたうえで、ラックごとにラベルで細かく分類した棚に保管。アマゾンの利用者から注文が入ると、梱包して宅配業者の伝票を付けて配送に回す。出品者への売上通知メールも自動的に送信される仕組みだ。
委託されてから90日経っても売れない商品はアプレックが廉価で買い取り、自社の出品に切り替える。現在オフィスに保管している商品は、預かっているものと買い取ったものを合わせて約6万点とのこと。
試練もたびたび経験している。本1冊の発送料は現在260円だが、最初の会員募集時にディスカウント料金を設定したところ利益が思うように上がらず、会員たちに事情を説明して現行料金への改訂を了承してもらったこともあった。創業時からシステム分野の主力であるS部長が病気がちで、長期にわたって休むこともある。それでも、若手のスタッフが成長してツールの開発やウェブサイトのデザインで貢献してくれるようになり、S部長の不在を皆でカバーする体制が整いつつある。「支えてくれる会員さんたちとスタッフたちのおかげでここまでやってこれました」と石田氏は振り返る。
衝撃を受けたのは昨秋、アマゾンが出品者から送付された商品を保管し、注文した客への発送までを受け持つサービス「フルフィルメント by Amazon」(FBA)で、メディア(本、CD、DVDなど)の取り扱いを開始したことだった。圧倒的な競合サービスの登場か、と当初は動揺したが、内容を冷静に分析すると、FBAよりアプレックのサービスの方が割安になるケースもあり、またFBAへの送付作業も一定の手間がかかることが分かった。熟考の末、石田氏はアマゾンへの出品代行とFBAへの発送代行を組み合わせて提供するサービスの立ち上げを決意。約半年の準備期間を経て、新サービス「FBA出品代行」を今月17日にスタートした(右の写真はFBA代行業務用に新設された一角)。既存サービスの会員を中心に登録者が伸びており、またアマゾン日本法人からも後押しの確約を得るなど、順調な滑り出しのようだ。
今後の事業展開を尋ねると、「今は明かせませんが、考えていることはあります」と語る石田氏。それとは別に、会社経営に余裕ができれば託児施設などの福利厚生を充実させたいという。また、自分の子が障害を抱えていることもあり、障害者が働ける職場にする夢も持っている。
仕事帰りにはよく多摩センターのライブハウス「コルコバード」に寄ってギターでセッションしていると笑う石田氏の、明るく澄んだ瞳が印象的だった。(高森郁哉)