「エコプラザ多摩(多摩市立資源化センター)」をご存じだろうか。永山駅東側のバス通りを南に進むと、突き当たりのT字交差点で尾根幹線に出るが、この交差点あたりに面する大きな施設である。エコプラザ多摩がどのような事業を行っている場所なのかを具体的に知るため、今月中旬に同施設を訪ねて取材した。(益子徹記者)
取材のきっかけになったのは、当サイトのコラム「カメの菊五郎の出張所」の「覚えてますか?知ってますか?」という文章で、エコプラザ多摩のキャラクター「エコロくん」の製作費の噂を取り上げたことだった。コラムとはいえ根拠のない噂の金額をそのまま書いたこと、またそれが「噂」だと明示的に書かなかったことは、誤解や偏見を増長させる可能性があったという点で大きな過失であり、関係者および読者にお詫びしなければならないのはこれまで繰り返してきた通りだが、そうした噂が流れる一因として情報公開不足という背景もあるように感じた。そこでエコプラザ多摩の関係者に、同施設を取材して正確な情報を伝え、市民の関心と理解を深めるのに役立つ記事を改めて掲載したいと願い出たところ、了承を得たという経緯があった。
はじめに、エコプラザ多摩の概要を記しておきたい。以下の内容は、多摩市が発行している「エコプラザ多摩」という冊子から抜粋した。
名 称:エコプラザ多摩(多摩市立資源化センター)
所在地:東京都多摩市諏訪六丁目3番地2
敷地面積:13,000m2
延床面積:8,809.5m2【施設建設工事】
総事業費:27億3,945万円(用地費は除く)
工 期:着工 平成10年06月15日
竣工 平成11年09月30日【平成20年3月設備一部改修工事】
総事業費:2億3,100万円
用地取得にかかった費用は、行政資料室で平成10年度当初予算書と平成11年決算報告書で確認したところ、9億9,270.6万円(※)だった。施設建設費と改修工事の金額を合算すると29億7,045万円となり、これに用地費を加えると39億6,315.6万円となる。平成20年度決算事業報告書では資源化センター管理運営事業費は2億8,406.9万円である。(※用地費9億9,270.6万円は譲渡金額のうち前払い分。譲渡金額は23億1,400万円。13億2,129.4万円は10年間の支払い据え置き)
冊子「エコプラザ多摩」の最初のページには「21世紀の資源循環型のまちづくりをめざして誕生した“エコプラザ多摩”」と書かれており、この施設では、一日(5時間)当たり最大処理能力として60トンもの資源を中間処理できるという。処理の内訳は、以下のように書かれている。
びん類 13t/日
缶類・ペットボトル 9t/日
トレイ 1t/日
プラスチック 10t/日
古紙類 25t/日
剪定枝・草 2t/日
取材当日、多摩市ごみ対策課長兼資源化センター所長の鈴木秀之氏と同センター施設担当主査の糟谷修宏氏に、同施設での事業内容や、キャラクターを使った広報活動について話を聞いた。ここエコプラザには、一般家庭や小規模事業所から分別収集された資源が日々運び込まれ、選別作業を経て、破袋や圧縮の処理が施される。そうして運搬しやすくなった資源が、また再生工場へと運ばれていく。
説明を受けた後は、見学路に沿って各種作業用の設備を案内していただいた。コンベア上を流れる缶・ペットボトルを手選別する作業室では、キャットウォークに入ったとたん飲料に含まれるさまざまな香料が入り混じったムッとするような空気に包まれる。「今の時期は(気温がそう高くないので)匂いもこの程度ですが、夏になると本当に大変です」と糟谷氏。私たちが家庭で何気なく出している分別ごみの資源化が、こうした環境で黙々と作業を続ける従業員たちによって支えられているという事実を改めて思い知らされた。
取材したのは火曜で、稼働している設備が比較的少ない曜日だった。全部が稼働しているところを見学できないのは残念だったが、必要な設備を必要な時だけ稼働することでランニングコスト削減に努めていることは理解できる。糟谷氏によると、見学路の照明や電光案内板、トイレの照明なども普段は極力切っているそうで、「エコ」の施設だけあって省エネも徹底されている印象を受けた。
なお、施設内の展示スペースと見学路は市内の小学生の社会科見学で利用される機会が多いが、一般の見学希望者についても、事前に連絡をもらえれば受け入れているとのこと。また、市内に200名ほどいる廃棄物減量等推進委員も、任期中に2回は見学する機会があるという。
「覚えてますか?知ってますか?」で取り上げた「エコロくん」人形は、管理棟1階の入り口と3階の見学コース終了地点の2カ所に設置されている。これはセンサーで人の動きを検知し、内蔵スピーカーを通じて入口では歓迎のあいさつ、終点ではお別れのあいさつを音声で案内するというもの。実際の製作費は1体約170万円だったといい、確かに実物を見たら数千万もかかるはずがないというのは一目瞭然だった。
鈴木氏によると、このエコロくんと「エコミちゃん」(デザインのみで、人形は無い)は、エコの取り組みを擬人化することによって子どもがごみ問題と資源化を理解するのに役だっているという。各家庭に配布している「ごみカレンダー」や「ごみ資源の分別ガイドブック」などでも活用しているが、私は、子どもだけでなく、大人にもキャラクターの存在を印象づけて、あの2つのキャラクターを見たときにゴミ問題を思い出すきっかけになるよう、活用の仕方をさらに工夫してみては、と提案したところ、同氏から「そうした意見を検討材料にし、今後の広報利用に役立てたいと思います」との回答をいただいた。
また、「エコセメント」の話も興味深いものだった。エコセメントとは、焼却灰を埋め立てるのではなく、加工してセメントにすることによって最終埋め立て地の長期活用(延命)を目的とするもの。一部事務組合でエコセメントを作っている例は世界的にも珍しく、おそらく「東京たま広域資源循環組合」だけではないかという。エコセメントを作る過程でCO2は排出されるのだが、それよりも長期活用に主眼をおいて活動しているとのこと。
今回の取材で改めて感じたのは、エコセメントであれ、循環型社会であれ、いろいろと二律離反する問題があるということ。エコセメントであれば、処分場の延命化かCO2排出削減か。循環型社会であれば、エコプラザ多摩へ搬入される資源が減り稼働率が落ちる。そうなった時にエコプラザ多摩の維持管理と今後のゴミ政策をどうするのか。
また、循環型社会実現のためには、私たちの生活はどうあるべきなのか。考えてみれば、昔は買い物袋を持っていくのが普通だった。それがレジ袋の出現によってそうした習慣がなくなり、今ブームのエコバッグなどは昭和30、40年代への回帰とも言える。多くの部分でそうした回帰が進めば、焼却灰が減りエコセメント製造の原料の安定供給が滞る。そうなったら、エコセメント事業の継続をどう考えたらいいのか。
自分たちの生活スタイルを真剣に考え、その上でエコプラザ多摩やエコセメントのあり方を行政だけに任せるのではなく、各個人が真剣に考えなければいけない時期がきていると痛感した。そして、より総合的に考え最善の解決策を導くためにも、正確な情報を公開すること、現場で働く人たちの姿と言葉を伝えることは、メディアにとって重要な使命であるとの思いを新たにした。(益子徹)