
少し前から、バスを降りるたびに気になっていた。
運賃箱に貼られた、妙に主張の強い赤い案内。
しかし後ろには人の列が連なり、立ち止まる余裕もなく、いつもその正体を確かめることなく通り過ぎていた。
ある日、ほんの一瞬の隙をついて目を凝らすと、そこには「キャッシュレスバス宣言」と堂々と掲げられている。
現金収受は2027年に終了予定。
交通系ICカードでの決済を推奨する、という未来からの通達のような文章。
ふと運賃箱を見下ろすと、現金を入れる口がやけに小さい。
以前よりも明らかに狭められているその入口は、ただの構造ではなく、静かな意思の表れのように見える。
ここから先へ進むには、もう硬貨ではなく、別のかたちの“通貨”を持て、という無言の合図。
日々の何気ない乗り降りの中で、世界はゆっくりと姿を変えている。
気づけば、あの赤い紙はただの案内ではなく、未来への入口の目印なのかもしれない。
次にバスを降りるとき、少しだけ立ち止まって、その変化を確かめてみたくなる。







