多摩センター駅に長く根を張ってきた啓文堂書店が、静かに看板を下ろし、紀伊國屋書店へと生まれ変わった。
まるで書物の霊がひそやかに引っ越しを始めたかのような気配が、駅前の空気をふわりとかき回していく。
そこへ向こう側からは、すでに堂々たる風格で佇む「丸善」が構えを整え、多摩センターの中心で、書店同士の静かな覇権争いが始まろうとしている。
棚に並ぶ物語たちは、新たな居場所を得てさらに騒がしくささやき、読者たちの心を引っ張り回す気満々である。
本の森は広がり、迷いこむ者は増え、街はほんの少しだけ文学の熱を帯びていく。
多摩センターに吹き始めた書の風は、いつになく冒険めいた午後へと導いてくれそうだ。
